第1回海外視察:バングラデシュ(ダッカ・コックスバザール・ロヒンギャ難民キャンプ・ノライル)視察

海外視察

2026年4月下旬から5月上旬にかけて、バングラデシュの3都市(ダッカ、ノライル、コックスバザール)の医療施設、およびロヒンギャ難民キャンプを訪れました。

今回の視察の目的は以下の通りです。
– 100万人以上の難民をかかえる世界最大級の難民キャンプであるロヒンギャ難民キャンプに住む妊婦や小児がどういった健康問題を抱えているか、また、どういった支援が足りていないのかを実際に自分たちで確認する

– これだけの膨大な数の難民を受け入れているバングラデシュ国内、特にコックスバザールの医療状況と課題を確認する

– コックスバザール以外の都市で、バングラデシュの人々が直面している健康問題を確認する

今回訪れた都市の場所を、以下の地図で確認しておきましょう。

バングラデシュ国内の医療状況

ダッカでは、私立の小児病院および大学病院、またコックスバザールやノライルでは県立や公立病院を訪問し、主に新生児病棟や小児病棟、分娩室を中心に、病院によっては成人病棟の様子も見学させてもらいました。
ここでは、主な問題点を3つ挙げてみます。

病床数の不足
どの病院も患者で溢れており、特に地方では病床数の10倍の人が入院している状態でした。圧倒的に病床数が足りないため、廊下に敷物を敷いて点滴を受けている患者さんが多くいて、廊下を歩く時も寝ている患者さんを避けながら歩くような状態でした。
地方においては、最も大きな病院である県立病院でも3,4名の新生児・小児患者が一つのベットを使用している状態であり、そこに付き添いの母親やそのほかの家族が座っていました。昼間は、総勢7,8人が一つのベットに集まり、夜は母親は床に敷物を敷いて入院している子どもを見守っているとのことでした。

医療スタッフの不足
医師は午前中に病棟を回ったのち、午後は自らのクリニックに行ってしまうことが多く、残された看護師たちが患者対応に苦慮するという現実があります。これは、圧倒的に医師数が足りていないことに加え、病院の給料の問題もあり、医師たちはより収入が高いクリニックにいる傾向となります。
これは、バングラデシュに限らず、十分な医師数が確保できない他のアジア・アフリカ諸国でもよく見かける光景です。

のしかかる医療費
国立や公立の病院は、上記のようにいつもパンパンな状態です。そのため、入院できなかったり、診察を受けることが出来ない人の中で、なんとか支払いが出来る人たちは私立の病院やクリニックに行きます。私たちが見学した私立の小児病院は、国立と比較し、設備やスタッフ数もはるかに安定した状態でした。ただし、例えば、新生児の入院には1日最低9千円程の費用がかかり、月給の平均が2万円であるバングラデシュにおいて、この医療費を支払える患者家族は非常に限られています。

また、バングラデシュでは施設によっては、全分娩数の70%は帝王切開というほど、帝王切開が多く行われています。理由は様々で、病院側の利益や帝王切開ならば予定をたてれるという利便性を考えていたり、患者さん側の希望も多いとのことでした。

分娩室 ⒸSayori Kobayashi
病院の壁に描かれた子どもの病気について ⒸSayori Kobayashi

ロヒンギャ難民キャンプの状況

ロヒンギャ難民キャンプは、現在、約120万人の難民が生活する、世界最大の難民キャンプとなっています。総人口のうち、約50%は子どもであり、女性を合わせると約80%となり、キャンプ内の大多数が女性と子どもであると言えます。

家は木とビニールシートで作られた簡易的なものが立ち並び、人々がひしめき合って暮らしていると言えるほど人口密度が高くなっています(東京の6倍以上の密度です)。
電気は通っておらず、道に置かれているソーラーパネルを度々みましたが、これで賄える電力は微々たるものです。

ⒸSayori Kobayashi

キャンプ内に「学校」は存在せず、キャンプごとにNGOなどが建てた学習センターがあります。
ここで、NGOなどが算数や英語などのクラスを提供していますが、資金難なども重なり、子どもへの教育は十分とは言えない状況です。

ⒸSayori Kobayashi

ロヒンギャ難民キャンプ内とその周辺の医療状況

難民キャンプ内の医療施設は、主に3段階に分かれています。そのうち、人々の最も身近にあるものが以下の2つの施設です。

ヘルスポスト(Health Post)プライマリーヘルスセンター(Primary Health Center)
総数4646
スタッフメディカルアシスタント、看護師、助産師医師、看護師など
サービス風邪対応、予防接種、妊婦健診など分娩、外傷、メンタルヘルスなど

ここで対応しきれない人は、国連機関や国際NGOが運営している大きな病院に行きます。
これらの病院は、キャンプ内やホストコミュニティとの境界地域に建っており、ホストコミュニティの人への医療も提供しています。
現在、分娩や新生児対応ができる病院は、MSFやIOMの病院などを含め5施設程度あります。

ここでも沢山ある課題から、難民の妊婦・小児医療に関する3つの問題点を挙げてみましょう。

自宅分娩の危険性
伝統的にロヒンギャ難民は自宅分娩を好む傾向にあり、病院での妊婦健診には来ないことが多かったです。そのため、一体何人の妊婦さんが難民キャンプ内にいるのかなどの全体像は不透明なことが多いですが、一部では、難民キャンプ内の約半数の妊婦さんは自宅分娩を選択し、伝統的産婆(TBA)を好む傾向にあるとも言われています。

また、キャンプ内の妊産婦死亡の大半が、TBAの介助のもと自宅分娩を行っていたというデータもあり、TBAの知識や技術の改善が課題となっています。現在、IOMやUNFPAは、妊婦健診への呼び込みに力を入れると同時に、TBAの人へのトレーニングを行ったり、彼らとの協働に取り組んでいます。

健診の欠如
日本で当たり前に行われている新生児や乳児への健診は存在しません。そのため、子どもたちの身体的発達や運動・言語・社会的・認知機能などの他の発達がどうなっているのかは不明です。
親が病気と思ったら上記のヘルスポストなどに連れてくる形なので、子どもの健康は親の認識の程度に大きく依存してしまいます。

思春期の鬱
難民キャンプ内では、不安症などのメンタルヘルスが大きな問題と言われていますが、今回話をすることができた医師からは「思春期の子どものうつをとても心配している」という発言がありました。
原因としては、家庭内での暴力などに加え、教育を受けられず、全く見通せない将来への不安が挙げられました。彼らも時としてインターネット環境に触れることができ、そこで見る自分と同世代の子どもたちの生活と自分の生活を比較してしまうことも不安や鬱の要因となっているのでは、とのことでした。

これらは難民キャンプに住む難民の医療・健康問題ですが、すぐそばに住んでいるホストコミュニティの人々の医療状況も大きな違いはありません。ホストコミュニティの妊婦さんが入院できる施設はもともとなかったため、現在は国際団体によって難民のために建てられた病院を受診しています。

アートを通したメンタルヘルス支援の現場

今回、ご縁があってアメリカのNGOであるArtolution (https://www.artolution.org/) の活動現場を訪れることができました。
彼らはロヒンギャ難民が大量にバングラデシュ内に流入した2017年から難民キャンプで活動しています。キャンプ内の学習センターで工芸活動を通した子どもへの心理支援の他、キャンプ内&ホストコミュニティの地域での壁画プロジェクトを行っています。

ⒸSayori Kobayashi
ⒸSayori Kobayashi

今回の視察にあたり、一般財団法人 大竹財団 (https://ohdake-foundation.org/) の皆様から多大なるご支援を賜りました。心より感謝申し上げます。

タイトルとURLをコピーしました