年齢のわからない移民の子どもたち(2): 子どもが子どもとして認定されることの大切さ

移民・難民

子どもを子どもとして認定するのは、どうして大切なの?

それは、子どもが特有の権利を持っているからです。
子どもは健康や生活へのサポート、教育面で特別な保護ほご配慮はいりょが必要なため、子どもの権利条約では、18歳未満のすべての子どもに対して、以下のことを守るように書かれています。

☆人種や国籍、性別などで差別をされないこと
☆子どもに関することを決める時には、子どもにとって最善な方法はなにかをまず考えること
☆医療、教育、生活の支援を受け、成長できるようにすること
☆子どもの意見が尊重そんちょうされること

2015年にはソマリアと南スーダンが加わり、トータル196ヵ国がこの条約に同意しています。
つまり、この196ヵ国は、子どもの権利を守る義務があります。

残念なことに、世界でアメリカ合衆国だけは同意には至っていません(将来的に同意する意思は示しています)。

子どもの権利条約に同意していない国 (赤色)

子どもの権利に関しては、ユニセフのサイト(https://www.unicef.or.jp/crc/kodomo/)にわかりやすくまとめられています。

どうしてアメリカ合衆国は同意しないんだろう?
全ての国で、子どもの権利が守られるようになればいいな。

身分証明書を持っていない子ども達は、実際にどんな経験をしているの?

IDを持っていなかった移民の子どもたちがどんな経験をしたか、いくつかの例を見てみましょう。
(United Nations Human Rights Office of the High Commissioner. Spain’s age assessment procedures violate migrant children’s rights, UN committee findsより引用)

ケース1
移民の17歳男性が、ボートでヨーロッパに入国。
赤十字のスタッフのサポートを得て、警察には18歳未満と報告したが、警察では18歳以上として登録された。
その後、難民申請は拒否され、大人が入る入国者収容センターに入れられる。
NGOスタッフの助けで母国から出生証明書を入手し、17歳であることを提示できたことで入国者収容センターからは出れたものの、子どもとしては認められなかった。

ケース2
移民の17歳男性が、病院でのレントゲン撮影で19歳以上と診断された。
大人が入る入国者収容センターに入れられ、センターのスタッフから棒で叩かれるなど暴力を受けた。
NGOの助けで母国より出生証明書を入手。18歳未満であることを確認し、裁判所に出生証明書を提出するも返事はなかった。

その他、
「病院での年齢アセスメント時に、着ている物をぬいで裸のままでいるよう言われ、プライベートな部分を触られて、人として扱われていない気がした」
「収容所で暴力を受けた」
「犯罪者のように警察に手錠をかけられた」
などのケースも報告されています。

暴力を受けるなんて、恐怖でしかない。
検査だって、子どもの気持ちも考えながらやってほしいな。

年齢アセスメントは子ども達の健康にどのように影響するの?

年齢アセスメントのプロセスが、子どもたちにとってトラウマとなって、その後のメンタルヘルスに影響しているという議論もあります。

特に身分証明書を携帯していないことが多いUnaccompanied minorsアンアカンパニード マイナーは、紛争ふんそうや戦争、貧困により自国を離れ、保護者がいないまま、長距離を移動していることが多いです。
そのため、自国にいた時、もしくは他国に移動する間に、殴打おうだ拷問ごうもん・性暴力などの被害にあったり、家族がそういったことに巻き込まれるのを実際に見た経験をしていることが多いです。

そういった経験から、移民として他国にたどり着く前に既にトラウマを抱えていることがあります。

やっとの思いで他国にたどり着いた後に、年齢アセスメントのためとは言え、狭い部屋に長時間閉じ込められたり、過去のトラウマ体験を何度も繰り返し質問されたりすることは、彼らにとって決して容易なことではありません。

そのため、年齢アセスメントのプロセスそのものが、再トラウマ化 (Re-traumatizationリ トラウマタイゼーション) をもたらすリスクが指摘されています。

ヨーロッパでは、2022年に移民の年齢アセスメントに関して、いくつかのガイドラインが出ています。その中には以下のようなことが書かれています。

☆ 子ども一人一人の尊厳そんげんを尊重する
☆ 年齢アセスメントの結果が出るまでは、子どもとして推定され、対処される
☆ 年齢アセスメントを行う前にインフォームドコンセントを取る
☆ 年齢アセスメントは専門家が行う

ちゃんとした年齢アセスメントを行うためにも、アセスメントを受ける人たちが身体的・精神的に安全・安心と感じられる環境を作っていかないといけないね

参考文献
– Unicef. Convention on the Rights of the Child. https://www.unicef.org/child-rights-convention
– ユニセフ。子どもの権利条約。 https://www.unicef.or.jp/crc/
Council of Europe. We are children, here us out! Children speak out about age assessment: Report on consultations with unaccompanied children on the topic of age assessment. https://rm.coe.int/we-are-children-hear-us-out-children-speak-outabout-age-assessment-re/16809486f3
– United Nations Human Rights Office of the High Commissioner. Spain’s age assessment procedures violate migrant children’s rights, UN committee finds. 13 October 2020. https://www.ohchr.org/en/press-releases/2020/10/spains-age-assessment-procedures-violate-migrant-childrens-rights-un
– Martha von Werthern, G Grigorakis, E Vizard. The mental health and wellbeing of Unaccompanied Refugee Minors (URMs). Child Abuse & Neglect. Volume 98, 2019, 104146, ISSN 0145-2134. https://doi.org/10.1016/j.chiabu.2019.104146.
– Scottish Government. Age Assessment Practice Guidance for Scotland. March 2018. https://www.gov.scot/publications/age-assessment-practice-guidance-scotland-good-practice-guidance-support-social/documents/
– Council of Europe. Age assessment in the context of migration: new Committee of Ministers Recommendation. 14 December 2022. https://www.coe.int/en/web/portal/-/age-assessment-in-the-context-of-migration-new-committee-of-ministers-recommendation

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