病院は安全？紛争のターゲットになる医療現場

「攻撃」「暴力」と一言でいってもその種類は沢山あります。例えば、医療スタッフが拳銃やナイフで脅されたり、暴言をはかれることもあれば、病院全体が爆撃ばくげきを受けることもあります。そういった物理的・精神的な暴力をまとめているWHOのデータを見てみると、過去３年間は下のグラフの通り、年間800～1,600件くらいの報告があります。

ただ、このデータは、世界21か国の紛争地からの報告に限られているため、ここに含まれていない国のものも入れたら、実際はこの数よりもずっと多くなると考えられます。

病院の建物が爆撃を受けると、当然ですが、そこで働いている医療スタッフや入院している患者さんが被害にあいます。例えば、2023年10月から起きているパレスチナ暫定自治区ざんていじちくへの攻撃では、3ヶ月の間に600件以上の医療への攻撃が起きており、それにより619名の患者さんが死亡、837名が怪我をしたと報告されています（2024年1月23日現在）。

さらに、人的被害だけでなく、インフラにも影響します。医療機器が壊れてしまったり、酸素や医療物資の供給ラインも壊されることもあります。そうなると、既にその病院に入院している患者さんだけではなく、新たに怪我けがをしたり病気になったりした人々への治療もすることが出来なくなり、その地域の医療サービス全体が機能しなくなります。

国際人道法(International Humanitarian Law)は、武力紛争下での犠牲者の保護や紛争においての規律を取り決めたものです。その中に、医療施設、医療スタッフ、そして傷ついた人々がどのように対応されるべきかが記載されています。
キーワードは「尊重」と「保護」です。

医療施設→傷病者を治療し人道的な機能を果たしている限り(敵に危害を加えない限り)、特別な保護をされる。

医療スタッフ→攻撃されない（＝尊重される）。危害から保護される。

傷病者→攻撃されない（＝尊重される）。危害から保護される。差別なく医療を受けられる。

紛争国は、医療スタッフの活動を不当に邪魔してはいけないとも明記されています。

参考文献
-World Health Organization. Surveillance System for Attacks on Health Care (SSA). https://extranet.who.int/ssa/Index.aspx
– United Nations. Nearly 600 attacks on healthcare in Gaza and West Bank since war began: WHO. 5 January 2024. https://news.un.org/en/story/2024/01/1145317
‐ International Committee of Red Cross (ICRC). What is international Humanitarian Law? https://www.icrc.org/en/document/what-international-humanitarian-law
‐ICRC. 国際人道法のいろは。わかりやすい人道法。https://www.eda.admin.ch/dam/eda/jp/documents/publications/GlossarezurAussenpolitik/ABC-Humanitaeren-Voelkerrechts_jp.pdf
‐ ICRC. Respecting and protecting health care in armed conflicts and in situations not covered by international humanitarian law – Factsheet. 21 May 2021. https://www.icrc.org/en/document/respecting-and-protecting-health-care-armed-conflicts-and-situations-not-covered
‐赤十字国際委員会。紛争下の病院の保護について：国際人道法は何て言っているの？ 15 December 2023. https://jp.icrc.org/information/protection-hospitals-during-armed-conflicts-what-law-says/